カバー:balubo magazine編集部作成のイラスト
会社概要、プレスリリース、過去のインタビュー。取材相手について読み進めるほど、開いているタブが増えていく。それでも、当日に何を聞けばいいのかは決まらない。そんなときは、調べる範囲と、調べた情報の残し方を見直せます。
取材の事前リサーチは記事で答えたい問いに沿って資料を読み、資料からわかることと、本人に確かめたいことを分ける作業です。相手の情報をすべて集めることを終点にせず、当日の確認事項まで作ります。
企業メディアや導入事例、社員インタビューを準備する広報・編集担当者に向けて、調査シートと記入例をまとめました。以下の手順は公開資料とbaluboの編集基準を踏まえた編集部の提案です。
最初に、調べる対象を「人・仕事・出来事」に絞る
事前リサーチでは、取材相手が何を担当する人なのか、仕事はどう進むのか、今回の記事に関わる出来事は何かを先に調べます。検索する前に「この記事を読む人は何を知りたいのか」を一文にすると、必要な資料を選びやすくなります。
たとえば、製品の導入を検討する読者に向けた記事なら、会社沿革を細かくたどるより、導入前の作業や使える条件が重要になります。同じ企業を扱う採用記事なら、担当者が任される仕事と、他部署との関わりが知りたいことになります。経歴そのものを扱う人物記事なら、沿革や過去の活動が判断の背景になることもあります。
米国の報道支援団体Pulitzer Centerが公開するインタビュー用ワークシートも、探究したい問題、話を聞く相手と理由、事前に調べてわかったこと、質問という順で記入欄を設けています。教材の一例ですが、相手の検索から始める前に、何を知るための取材かを定める参考になります。
最初のメモには、調べた内容が記事のどこにつながるかを添えます。
| 対象 | 先に確認すること | 記事とのつながり |
|---|---|---|
| 人 | 現在の所属・役職、担当する仕事、関わった時期 | その人が直接経験したことを聞けるか |
| 仕事 | 製品やサービスの用途、仕事の流れ、関係する部署 | 読者が話を理解するための前提は何か |
| 出来事 | 開発・導入・変更の発表、当時の目的、その後の動き | 今回の取材で確かめたい変化は何か |
知らない専門語が多ければ、業界団体や公的機関の用語解説を先に読みます。用語を理解するための資料と、その会社で実際に起きたことを示す資料は、用途を分けて残してください。
公式資料と過去記事は、知りたいことに合わせて読む
企業の公式資料では、その企業が公表している内容を確認します。過去記事では、本人が以前どう説明していたか、何がまだ詳しく語られていないかを読みます。公式か第三者かだけで、どちらか一方を読めば十分とは決められません。
会社概要やプロフィールは、名称と所属を確かめる入口です。ただし、掲載時点がわからないページなら、直近の人事発表などと照合し、取材の窓口にも現在の表記を確認します。古い登壇ページの肩書きを、そのまま現在の肩書きにしないためです。
プレスリリースには発表時点の予定や目標も書かれます。「実証を始める」と公表されていても、それだけでは継続運用や成果まではわかりません。発表を一文に要約するときも、予定・実施・結果のどこまで書かれているかを残します。
過去のインタビューからは発言の背景や当時の判断を拾えます。同じ話を繰り返すかどうかは、今回の記事の目的で決めましょう。「以前の記事ではこう説明されていました。その後、変わった点はありますか」と聞けば、過去の説明を起点に現在を確かめられます。調べて知っていることでも、今回の読者に必要な説明なら、改めて本人の言葉で聞く意味があります。
公式サイトだけでは資料が足りないときは、国立国会図書館「リサーチ・ナビ」の企業を調べるページも手掛かりになります。社史、企業・団体名簿、財務内容、有価証券報告書など、資料の種類ごとに調べ方への案内があります。必要な情報の種類を決めてから進むと、検索語を増やし続けずに済みます。
情報が食い違ったら、日付と対象を並べる
資料間で日付や数字が違うときは、片方をすぐに誤りと決めず、何を数え、どの時点を述べているかを比べます。同じ言葉に見えても、対象が異なる場合があるからです。
次は、取材の準備を説明する架空の例です。4月の発表には「試験運用を開始」、9月の発表には「正式提供を開始」とあるとします。二つの「開始」は、試験と正式提供という別の段階を指しています。メモを「4月にサービス開始」と一本化すると、その違いが消えます。
社員数も、グループ全体か単独の会社か、いつの数値かで変わります。資料の公開日が新しくても、掲載された数字の対象時点は以前のままかもしれません。公開日・対象時点・対象範囲をそろえた後に、残る食い違いを確認事項にします。

ロイターの報道基準「Sourcing」は、可能な限り情報を照合すること、何がわかっていないかを明確にすることを挙げています。企業記事の下調べでも、食い違いを隠して滑らかな説明にするより、確認先を決めるために使えます。
同じ発表を転載した複数ページは、別々の立場からの裏付けとして数えないようにします。元の資料をたどり、それぞれが独自に確認した情報なのかを見ます。数字自体を記事に使う段階では、割合・増減率・平均の確認方法も参照してください。
調査シートには、資料の記述と自分の推測を分けて残す
調査メモには、資料から読めること、まだわからないこと、確認先をURLと一緒に記録します。原稿を書くときに、どの資料を根拠にしたのか戻れる形にします。
特に注意したいのが、資料の記述と、自分の推測がつながって一文になることです。「新システムを導入した」という発表から、「人手不足のために導入した」と補えば、導入理由が事実のように見えてしまいます。理由が書かれていなければ、聞きたいことの欄へ移します。
以下は編集部が作成した、コピーして使えるひな形です。一つの論点ごとに記入し、無関係な資料は増やさない運用を想定しています。
記事で答えたい読者の問い:
【調べる論点】
資料の発行元・名称・URL:
資料の公開日/内容が指す時点/確認日:
該当ページ・見出し:
資料に書かれていること(引用か要約かも記す):
資料だけではわからないこと:
自分が考えた可能性・仮説:
確かめる相手・資料:
取材で聞くこと:
優先度(必須/余裕があれば/今回は扱わない):
たとえば、先ほどの架空例なら、次のように記録します。
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 資料に書かれていること | 4月に試験運用、9月に正式提供を始めた。各発表の要約 |
| まだわからないこと | 試験から正式提供へ進む際に、運用をどう変えたか |
| 仮説 | 対応する業務の範囲が広がったのかもしれない。資料には記述なし |
| 確認先 | 運用の担当者、試験時と正式提供時の業務資料 |
| 取材で聞くこと | 試験時と正式提供時で、運用はどのように変わりましたか |
実際のシートでは、URLと資料の日付も埋めます。公開日を確認できない資料は「公開日不明」と記し、確認日で置き換えないようにします。この例で「対象業務を広げたのはなぜですか」と尋ねると、仮説を前提にしてしまいます。まず違いの有無を聞き、変化があれば、その内容と判断理由へ進みます。
AIで資料を要約する場合も、担当者が該当箇所を読んで、メモと照合します。確認前の要約を「資料に書かれていること」の欄へ確定情報として移さないでください。AIが挙げた出典の確認方法では、原文と要約の対象・時点・確度を照合する手順を扱っています。
調べ終える目安は、未確認のことに確認先が付いたとき
事前リサーチから質問作りへ進む目安は、記事の前提を説明でき、重要な未確認事項について誰に何を聞くかが決まったときです。読むページ数や調査時間を、すべての取材に共通する基準にはしません。
まず、今回のテーマを知らない人に「相手は何を担当し、何について聞く取材なのか」を説明してみます。説明が専門語だけになるなら、仕事の流れや製品の用途をもう少し調べます。一方、資料にない判断理由を知りたい段階まで来ているなら、検索を続けるより、取材で尋ねる内容を整えるほうが先です。
出発前には、次の三つを点検します。
- 記事に必要な名称・所属・出来事を、資料に戻って確かめられるか。
- 資料からわかったことと、仮説・未確認事項を分けたか。
- 重要な未確認事項に、当日聞く相手や追加資料の依頼先を付けたか。
時間が限られる場合は、記事の主題が変わるほど重要な不足から確かめます。資料に情報がないことを「実績がない」「取り組んでいない」とは扱いません。公開していない、対象が違う、探し方が合っていない可能性も残るためです。相手が答えられない場合は、後日確認するか、記事で扱う範囲を絞ります。
取材当日は、調べた内容と異なる説明にも耳を傾けます。下調べのメモは、聞きたい結論へ相手を導く台本にはしません。質問の順序や追加質問を作る段階では、取材質問の作り方へ進んでください。終わった後は取材メモと事前のシートを見比べ、解消した疑問と、まだ確かめることを更新できます。



