「この原稿、わかりやすく編集してください」。AIにそう頼んだものの、文章が短くなっただけだった。内容は整っているのに、なぜか大げさで、自分が書いた文章には見えない。そんな経験はないでしょうか。
「わかりやすい」「自然」「論理的」といった言葉には、いくつもの判断が含まれます。AIに編集を任せるなら、何を残し、どこを変え、何をしてはいけないかまで伝える必要があります。
baluboの編集実務で、AIに原稿を渡すときによく伝えている指示を12項目に整理しました。それぞれの背景と、コピーして使える短い指示文も紹介します。
判断基準まで伝える
AIへの指示は、長ければよいわけではありません。目的、読者、制約、出力形式を分け、曖昧な形容詞を具体的な判断へ置き換えることが大切です。
Google Cloudのプロンプト設計ガイドは、目的、指示、制約、文脈、出力形式を分けています。必要な情報を構造化し、明確に渡す考え方です。Anthropicの公式ガイドも、望む出力と、AIが知らない前提や仕事の進め方を具体的に伝えるよう案内しています。
- わかりやすくして
- 自然に整えて
- いい感じに短くして
- 初見の読者に必要な前提を補う
- 主張と根拠の順に並べる
- 意味を保てる重複だけを削る
12項目を一度に使う必要はありません。原稿の問題に合わせて選び、仕上げに全文用プロンプトでまとめて確認する使い方が現実的です。
理解できる原稿にする
1. わかりやすくする
背景と意図: 「わかりにくい」原因は、難しい言葉だけではありません。主語がない、前提が抜けている、一文に情報が多い、指示語が何を指すか分からない。原因を分けて直すと、内容を薄めずに読みやすくできます。
専門用語を必要以上に言い換えず、初見の読者がつまずく前提、主語、指示語を補ってください。一文に複数の要点がある場合は分けてください。
2. 順番を組み直す
背景と意図: 書いた順番が、読者にとって理解しやすい順番とは限りません。結論より先に長い背景が続く場合は、主張、理由、具体例の順へ組み直すだけで筋道が見えます。
段落や文の順番は変更して構いません。読者の疑問に沿って、結論、理由、具体例、補足の順を基本に、論理が自然につながる構成へ整えてください。
3. 初見の読者で考える
背景と意図: 書き手には当たり前でも、読者は社内事情、登場人物、製品名を知りません。「誰が、何を、なぜしているのか」を初出で示すと、読者は途中で戻らずに読めます。
指定した読者の予備知識に合わせて編集してください。初見では分からない固有名詞や専門用語は初出で短く説明し、誰が、何を、なぜ行うのかが分かるようにしてください。
4. 見出しも見直す
背景と意図: 本文だけを直しても、見出しが内容とずれていれば読者は迷います。質問形式の記事なら、問いが広すぎないか、本文が直後に答えているかも確認します。
小見出しと質問文も編集対象にしてください。各見出しが直下の内容を正確に表し、見出しだけでも記事の流れを追えるように整えてください。
言葉
難しい語を消すのではなく、理解に必要な説明を足す。
順番
書き手の思考順ではなく、読者の理解順へ組み直す。
前提
人物、用語、背景を初出で短く紹介する。
見出し
本文の実態と、見出しが約束する内容を揃える。
事実と論理を守る
5. 事実をつくらない
背景と意図: 「嘘をつかないで」だけでは、確認できない情報をどう扱うかが曖昧です。原稿や資料にない説明を補わず、不明点を不明なまま示すルールまで決めます。
原稿や提供資料にない事実、数字、因果関係、発言を追加しないでください。原稿にある主張も、照合できる資料がなければ「要確認」として分け、原稿に書かれていることだけを根拠に確認済みにしないでください。
6. 問いと答えを揃える
背景と意図: 質問が「理由」を聞いているのに、回答が経緯だけで終わることがあります。AIに回答を創作させず、質問側を調整する判断も必要です。
質問と回答の対応を確認してください。回答が質問に直接答えていない場合は、回答を創作せず、質問の修正案か追加確認が必要な点を示してください。
7. 断定の強さを選ぶ
背景と意図: すべてを「かもしれません」にすると読みにくくなります。一方、経験や一例を一般論として言い切ると、事実の範囲を越えます。大切なのは、文章の確度を根拠に合わせることです。
確認済みの事実は明確に書き、経験則、推測、将来予測は断定しないでください。「必ず」「唯一」「すべて」などの強い語は、根拠が十分な場合だけ残してください。
語り口と流れを整える
8. 大げさにしない
背景と意図: AIの文章は、内容を強く見せようとして形容詞や決まり文句を足すことがあります。「画期的」「圧倒的」といった語を削り、事実や具体例に語らせるほうが、原稿の信頼を守れます。
「画期的」「革新的」「圧倒的」「まさに」など、根拠のない大げさな表現は使わないでください。抽象的な称賛は、確認できる事実や具体的な行動へ置き換えてください。
9. 上から目線を避ける
背景と意図: 読者の知識不足を責めたり、「こうするべき」と決めつけたりすると、内容が正しくても受け取りにくくなります。選択肢と条件を示し、判断を読者に戻します。
読者や取材相手を評価するような言い方を避けてください。「〜すべき」「〜は間違い」と決めつけず、選択肢、向く条件、注意点を示す謙虚な語り口に整えてください。
10. 前後を自然につなぐ
背景と意図: 一文だけを見れば自然でも、前の段落と同じ話を繰り返す場合があります。次の話題へ急に飛ぶこともあります。接続詞を足すだけでなく、文の役割と順番を見直します。
修正箇所だけでなく前後も読み、前の文を自然に受け、次の段落へつながる流れにしてください。必要なら接続詞ではなく、文の役割と順番を見直してください。
誇張しない
形容詞で強めず、事実と具体例を残す。
裁かない
正解を押しつけず、条件と選択肢を示す。
前後をつなぐ
一文だけでなく、段落どうしの流れを読む。
削りすぎず整える
11. 重複を整理する
背景と意図: 同じ結論を繰り返すと、論点がぼやけることがあります。ただし、初出の説明と結論での回収は役割が違います。機械的に削らず、各文の役割を見ます。
同じ主張や説明が重複している箇所を探し、もっとも効果的な一箇所へまとめてください。導入、具体例、結論など役割が違う反復は残してください。
12. 短さより意味を守る
背景と意図: 「コンパクトに」は、文字数を減らす指示ではありません。なくても意味が変わらない語を削り、理解に必要な前提、条件、具体例は残します。
意味を保てる範囲で少しコンパクトにしてください。重複、長い言い回し、不要な接続詞は削り、理解に必要な前提、条件、具体例は残してください。
- 同じ結論の言い換え
- なくても通じる接続詞
- 長い形式表現
- 見出しと本文の重複
- 初見読者に必要な前提
- 主張を支える条件
- 筆者固有の具体例
- 断定を限定する留保
編集前後で、残す事実と戻す疑問を見分ける
AIに期待する修正を、短い例で先に示す方法もあります。ここでは、原稿の言い回しより先に、主張の範囲と根拠の対応を確認します。
以下の原稿、資料メモ、編集案は、判断の違いを説明するために編集部が作った架空の例です。実際の案件・成果・発言や、特定のAIを実行した結果ではありません。
渡す原稿と資料を分ける
架空の元原稿には、こう書かれていたとします。
手順書の共有場所を一本化したことで、全社の確認時間が半分になりました。誰でもすぐに必要な情報を見つけられるようになり、担当者からも好評です。
一方、提供できる資料は次の3点だけです。資料に番号を付けると、修正箇所と照合先を対応させられます。
- 資料A・試行記録: 2026年9月1日から30日まで、ある部署の担当者4人が、手順書の共有場所を一つにまとめて試した。
- 資料B・集計メモ: 情報を確認するための所要時間は未集計。他部署での利用状況も確認していない。
- 資料C・担当者メモ: 4人のうち1人が、以前より手順書を探す場所を把握しやすくなったと回答した。残る3人の評価は記録されていない。
元原稿自体を根拠に「半分」を残すと、未確認の数字が整った文章として通ってしまいます。この例では、元原稿は編集対象、資料A〜Cは照合材料です。資料の内容自体が正しいか、掲載できるかは、人が別に確認します。
書ける範囲に直し、効果の断定を戻す
この資料だけなら、編集案は次の範囲にとどめます。
ある部署の担当者4人は、2026年9月の1か月間、手順書の共有場所を一つにまとめて試しました。うち1人からは、以前より手順書を探す場所を把握しやすくなったという回答がありました。確認にかかる時間と他部署の利用状況は未確認で、残る3人の評価も記録されていません。
架空の編集例:言い換えだけでは直らない3か所(編集部作成)
| 元原稿の表現 | 修正の判断 | 照合先 |
|---|---|---|
| 全社の確認時間が半分 | 効果の数字を削り、部署・人数・試行期間を示す。全社の実測値として扱わない | 資料A・B |
| 一本化したことで | 未測定の時間短縮と結び付けず、実施内容として書く | 資料A・B |
| 誰でもすぐに/担当者からも好評 | 1人の回答と未確認の範囲を分ける。残る人の評価を推測しない | 資料B・C |
時間短縮を記事の主題にするなら、この段落だけでは答えが足りません。担当者に、何の時間をどう測ったのか、比較する期間・作業・対象者は同じか、ほかに手順を変えていないかを確認します。測定がなければ、「半分」を「大幅に」に置き換えて済ませず、効果の主張を外すか、追加取材へ戻します。
診断、修正、要確認を別々に返してもらう
全文の書き直しを頼む前に、次の指示で問題の所在を確認できます。これは編集部が提案する運用例です。診断結果の正しさも、元原稿と資料を見て確かめます。
まず原稿を診断し、全文の書き直しはしないでください。
原稿と提供資料を別々に扱ってください。
各指摘は次の順で返してください。
1. 元原稿の該当箇所
2. 問題の種類(根拠不足/対象の拡大/因果の飛躍など)
3. 対応する提供資料の番号・該当箇所
4. 資料の範囲で書ける修正案
5. 追加確認が必要な点と、その確認先の候補
資料にない数字・発言・効果は追加しないでください。
対応する資料がなければ「照合先なし」としてください。
リンク先を実際に読んでいない場合も、確認済みにしないでください。
取材記事で要確認事項が残ったら、原稿確認の依頼と修正の整理へ進めます。外部資料の主張を確かめる手順は、AI時代の出典確認で整理しています。
そのまま使えるプロンプト
次のプロンプトは、12項目を一つにまとめたものです。冒頭の目的、読者、媒体、残したい要素を書き換え、照合できる資料を添えて使えます。
あなたは原稿の編集者です。以下の原稿を、事実と筆者の意図を変えずに編集してください。
目的:[この記事で達成したいこと]
想定読者:[読者の立場。テーマをどこまで知っているか]
媒体と文体:[掲載先/です・ます調など]
残したい要素:[筆者らしい表現、具体例、固有の語彙など]
照合資料:[資料番号、本文・該当箇所、確認できる範囲。渡せない情報は含めない]
編集方針:
1. 初見の読者が理解できるよう、前提、主語、指示語を補う。
2. 必要なら文や段落を入れ替え、結論、理由、具体例の流れをつくる。
3. 原稿や提供資料にない事実、数字、因果、発言を追加しない。原稿にある主張も、照合資料がなければ要確認へ分ける。
4. 質問と回答を対応させる。ずれがあれば回答を創作せず、質問の修正案か要確認事項を出す。
5. 固有名詞と専門用語は、初出で短く説明する。
6. 小見出しと質問文も見直し、本文の内容と一致させる。
7. 根拠のない大げさな形容詞や、AIらしい定型表現を使わない。
8. 重複は効果的な一箇所へまとめる。ただし役割の違う反復は残す。
9. 意味を損なわない範囲でコンパクトにする。必要な条件と具体例は削らない。
10. 修正箇所の前後を読み、段落どうしが自然につながるようにする。
11. 断定の強さを根拠に合わせる。経験則や推測を一般的事実として言い切らない。
12. 読者を責めたり正解を押しつけたりせず、選択肢と条件を示す語り口にする。
出力:
A. 編集後の全文
B. 主な変更点と理由
C. 事実確認や追加情報が必要な箇所(照合資料番号・確認先の候補を添える)
実際に読めていない資料やリンク先は「未確認」とし、確認済みに含めない。
原稿:
[ここに原稿を貼る]
原稿が長い場合は、一度にすべてを直さず、構成、本文、校正の順に分ける方法もあります。最初に「問題点だけ挙げてください」と頼み、編集方針を確認してから全文を直すと、意図しない変更を見つけやすくなります。
診断する
読者がつまずく箇所、論理のずれ、重複、要確認の事実を先に挙げてもらう。
編集する
合意した方針で全文を直し、主な変更点も出してもらう。
照合する
元原稿、提供資料、編集後の文章を見比べ、意味と事実が変わっていないか確かめる。
繰り返す指示を手順書へまとめたい場合は、Claude Codeで提案書の下書きを作る練習例も使えます。SKILL.mdと架空の入力資料3点を用意し、依頼内容と料金の適用条件を照合する例です。原稿編集の指示をそのまま送信・見積確定の権限にせず、下書きと本人の判断を分けて試します。
最後は人が判断する
プロンプトは、AIから正解を引き出す呪文ではありません。どこまで直してよいか、何を残すか、何を確認へ戻すかを共有する編集方針です。使うAIや原稿によって出力は変わるため、同じ指示でも結果を見ながら調整します。
社内でAI編集を続けるなら、修正前の原稿、指示、修正後の原稿を残します。よかった結果だけでなく過程も残すと、判断基準を共有しやすくなります。外部の編集者へ依頼する場合も、この12項目は任せる範囲を伝える共通言語になります。
照合では、数字・固有名詞・発言に加え、対象者、時点、条件、断定の強さが変わっていないかを確かめます。修正案を採用するか、確認先へ戻すか、掲載を見送るかまで決めて初めて編集は終わります。事実の確認と表記の確認を分けたいときは、校正・校閲の違いと用語も参考になります。
まとめ
- 「わかりやすく」だけで終えず、読者、順番、残す情報を具体的に伝えます。
- AIに事実を補わせず、不明点は「要確認」として出してもらいます。
- 全文編集の前に問題点を確認し、最後は元原稿と資料を人が照合します。
参考資料
- Google Cloud「Overview of prompting strategies」(2026年10月15日再確認)
- Anthropic「Prompting best practices」(2026年10月15日再確認)
本稿の12項目は、baluboの編集実務で使っている指示をもとに整理したものです。特定のAIやモデルで、同じ結果を保証するものではありません。



