大阪の化学メーカーで、船舶用塗料の研究をしていた大友悟さん。担当した研究が製品になり、仕事も暮らしも順調でした。それでも、定時で仕事を終えた後に「もっと何かに没頭したい」という思いが残っていたといいます。
その後、大友さんが選んだのは、福島県会津美里町で陶芸家を目指す道でした。この決断を支えた選択肢の一つが、地域おこし協力隊です。
総務省がスポンサーとなったNewsPicksの記事では、こうした一人ひとりの経験から、地域で働き、生きていくことを考えました。執筆で大切にしたのは、制度の特徴を説明するだけでなく、なぜその人が制度を必要とし、何に挑戦できたのかを描くことです。
制度の魅力は、支援内容を並べるだけでは伝わりません。この記事では、3人の具体的な経験と発言をもとに、制度の説明を「自分はどう働きたいか」という読者の問いにつなぐ構成を紹介します。地域や事業の発信を考える方に、何を聞き、どんな順序で伝えれば、まだ関心のない読者にも届く記事になるのか。その企画・取材のヒントをお届けします。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| スポンサー・媒体 | 総務省(地域おこし協力隊)/NewsPicks Brand Design |
| 目的 | 協力隊をキャリアの選択肢として認知してもらい、制度の検討や入門講座への関心につなげる |
| 主な読者 | 転職やキャリアチェンジを考える20〜40代、地方での仕事や暮らしに関心を持つビジネスパーソン |
| 企画 | 現役隊員の大友悟さん、協力隊を経験した石井挙之さん、地域で事業を営む岩佐大輝さんの3人に、決断と暮らしの実際を聞く |
1. 「地方の制度」を、自分の働き方と結び付ける
地域おこし協力隊を知ってもらうことと、自分のキャリアの選択肢として考えてもらうことには、距離があります。活動内容や支援の説明に入る前に、読者が自分と関係のある話だと感じられる入口が必要でした。
企画で重視されたのは、地域での自己実現という視点です。登場する仕事が陶芸やデザイン、農業だからといって、読者に勧めたいのが職人への転身や起業に限られるわけではありません。いまの経験を、どこで、何のために活かしたいのか。その問いを、地域で働く選択につなげました。
そこで記事は、都市での仕事を辞めた後の活躍に先立ち、辞める前に何を考えていたかを描いています。大友さんには、研究が製品化された手応えがありました。石井さんも、つくる仕事そのものは一生続けたいと考えていました。
仕事への不満から離れる人もいれば、好きな仕事をもっと納得できる形で続けたい人もいる。この違いを残すことで、現在の職場に大きな不満がない読者にも、自分の働き方を考える余地をつくりたいと考えました。
2. 同じ「地域への移動」でも、3人が求めたものは違う
大友悟さん:研究で培った知識を、心から没頭できる仕事へ
大友さんが陶芸に惹かれたのは、パートナーと焼き物の産地を巡っていたときのことです。器の表面を覆う成分と、自分が研究していた塗料の共通点に気づきました。化学の知識を、新しいものづくりに活かせるのではないか。そこから関心が深まっていったといいます。
会社員を続けながら通信制大学で陶芸を学び始めたものの、そのペースでは目指す技術の習得に長い時間がかかる。窯元で学ぶ方法を探すなかで、協力隊の募集と出会いました。
この経緯があると、転身はそれまでのキャリアをすべて捨てる話にはなりません。研究で培ったものの見方が、次にやりたいことを見つける手がかりになっています。執筆では、研究職から陶芸家へという肩書きの変化に加え、その間にある本人の発見を残しました。
石井挙之さん:つくる仕事を続けながら、使う人との距離を変える
東京の広告制作会社で、大手企業のパッケージデザインなどを手がけていた石井さん。徹夜も多い日々の転機となったのは、勤務中に経験した東日本大震災でした。働き続ける自分の人生を考えた一方で、ものをつくる仕事は一生続けたい。そのときに立ち上がった問いが、「それをどこでやるか」でした。
大きな市場に向けた仕事では、使う人の顔が見えにくい。もっと相手との距離が近い場所でものづくりをしたい。こうした思いと、長浜市の地場産業振興という募集内容が重なり、協力隊への参加につながっています。
大友さんは没頭したい対象を見つけ、石井さんは仕事を届ける相手との距離を見直した。同じ移住でも、求めた変化は異なります。二人の動機を描き分けることが、読者自身の望む変化を考える手がかりになります。

岩佐大輝さん:地域で営む事業を、受け入れる側から考える
岩佐さんは協力隊の出身ではありません。東京でIT企業を経営し、東日本大震災を機に故郷の宮城県山元町で農業に取り組んだ人です。会社を大きくすることから、地域の人口や所得をどう増やすかへと、関心が変わった経緯を語っています。
記事で担うのは、自身の転機に加え、地域で隊員たちと接してきた立場からの視点です。移住者が地域に合わせるだけでなく、地域側もその人の個性や挑戦にどう向き合うか。二人の体験にこの視点を重ねることで、本人の覚悟だけに責任を負わせない記事になります。
3. 制度の利点を、その人が必要とした支援から伝える
質問案では、数ある方法のなかでなぜ協力隊を選んだのか、制度がなくても踏み出せたと思うかを確かめることが、重要な論点になっていました。やりたいことと、実現に必要な支援の関係を具体化するためです。
大友さんにとっては、技術を学びながら暮らしを成り立たせられることが大きな意味を持っていました。未経験から職人の世界へ入る方法が見えないなかで、収入を得つつ、段階を踏んで技術と地域の生活を学べる。行政の担当者に相談できたことも、決断を支えています。
石井さんの話で印象的なのは、着任後の顔つなぎです。商工会議所の担当者が、地元の老舗や職人のもとへ連れて回ってくれた。土地に縁がなかった人が、自分だけで関係をつくろうとするのとは違う入口がありました。
この二つは、制度の支援を一律の利点として並べる説明とは異なります。大友さんには学ぶ時間と生活の支え、石井さんには地域の人と仕事を始めるための関係づくり。その人が何に困っていたかを先に描くことで、支援が持った意味がわかります。

4. お金と人間関係を、暮らしの場面まで具体化する
地域で挑戦できるとわかっても、次に気になるのは生活です。完成記事では、お金と人間関係を、それぞれ具体的な場面から伝えています。
石井さんは、古民家の一軒家を月数万円で借り、アトリエとして使っていると話しています。ただし、東京での会社員時代と、地域で事業を営む現在とでは、立場やライフステージが違う。その前提を置いたうえで、ものづくりに必要な場所の費用を語ってもらいました。
ここでの比較は、地方なら誰でも生活が安くなるという話ではありません。石井さんがやりたい仕事に必要な広さを、どんな負担で確保できるかという比較です。収入の額面から、本人が仕事を続けるための環境へと論点を進めています。
一方、地域の人との関係を伝えるのが、大友さんの写真撮影の経験です。窯元での修業に時間を使う姿は、周囲からは見えにくい。活動が伝わっていないことに気づいた大友さんは、行政や組合と連携し、ふるさと納税を通じて会津本郷焼の魅力を伝える取り組みを始めました。
「身近に器の写真を撮れる人がいなかったので、自分で撮影から発信までやってみたんです」
大友悟さん/元記事より
写真や発信を見た地域の人から、活動を認める声がかかるようになったといいます。本人が持っていたスキルを使って動くことで、地域のなかでの役割が見えてくる。ビジネスパーソンにとっても、自分の経験を地域でどう活かせるかを考えられる場面です。
制度が人を地域へ送り出すところから、地域のなかで関係を築くところまで描く。移住したという結果の先にある行動を具体化することで、暮らしの実像が伝わります。
5. 「まちのため」に奔走した人の、任期後の壁を残す
記事後半で大切にしたのが、任期が終わった後も、地域で生きていくという論点です。
石井さんは着任当初、地場産業のために何かしなければと意気込んでいました。さまざまなプロジェクトに取り組む一方で、自分たちが自立するための事業づくりが後手に回ったと話しています。任期の終わりが近づくと、報償費がなくなった後のビジネスプランをつくれていないことに直面しました。
一時は長浜を離れることも考えた末、仲間と会社を設立し、自社のアパレルブランドを立ち上げる。職人を支える側から、自分たちも事業を営む立場へと進んだ経験の先に、次の言葉があります。
「まずは自分が楽しむ。自分がそこで生きていく。その結果として、まちのためになる」
石井挙之さん/元記事より
この言葉を、地域貢献への意欲を否定するものとして扱わないことも大切です。まちのために活動する思いを、任期後も続けるには、自分たちの生活と事業が成り立つ必要がある。石井さん自身の苦労を描くことで、言葉の背景を伝えました。
大友さんの発言も、現在の満足だけで閉じていません。陶芸に打ち込むいまを楽しいと語りながら、独り立ちした後に振り返ってこそ評価できる、と続きます。
「ただ、来年からが本格的な勝負。独り立ちして数年経ったときに振り返って、どうだったか。答えが出るのはそこだと思います」
大友悟さん/元記事より
「来年」は元記事が掲載された2026年時点での発言です。いまの納得感を将来の成功へと置き換えず、まだ答えが出ていないことも残しました。
岩佐さんの話も、数年間の報酬だけを頼りにするのでなく、任期中に自分の人生や暮らしをどうつくるかを考えることへつながっています。読者が知りたいのは、応募するときの条件に加え、その後どんな仕事や暮らしを築けるかです。

最後は、移住を決める前にできる行動へ進みます。石井さんがまず現地へ行くことを勧める一方、大友さんは、自分のような慎重な人は考えたうえで動けばいいと話しています。冬の面接で初めて現地の雪を体験し、雪国での生活を具体的に思い描けたというエピソードも紹介しました。
まず見に行き、自分に合うかを確かめる。行動を勧めるときにも、慎重に考えたい人の判断を尊重しました。その着地が、制度を調べたり、入門講座で話を聞いたりする入口になると考えています。
6. 読者の反響にも、自立と受け入れ側の論点が表れた
公開コメントには、地域での仕事を自分の暮らしに重ねる声に加え、本人と地域がどう関係を築くかを考える声が寄せられています。
ある読者は、石井さんの話を受け、自分の強みを活かして自立することが地域との関係につながる、と捉えていました。
無理に地域の風習に染まろうとせず、自分の強みを活かして自立することが、結果として地域との良い関係に繋がるんですね。
また、協力隊の受け入れに携わる読者からは、地域に入る本人だけでなく、受け入れ側にも同じような課題があるという意見がありました。人手不足を埋めるためだけに制度を使えば、任期後につながる仕事が残らない。何を期待されているかの見極めが重要だという指摘です。元記事の公開コメント
別のコメントでは、定住率だけで制度の成功を判断せず、地域に何が残ったか、どうミスマッチを防ぐかを考える必要性も挙げられていました。
人を地域に合わせるのではなく、人の個性や能力と地域のニーズをどう結びつけるか。それが持続可能な地域づくりにつながると考えます。
こうした声は、制度の利点だけでなく、地域で続けていく条件も記事から受け取られていたことを示しています。起業や陶芸という個別の道を越え、自分は何をしたいか、どんな地域と関わりたいかという議論が生まれた点が、今回の反響として印象に残りました。
7. 制度の特徴と、その人が選んだ理由を対応させる
今回の執筆から、ほかの企画にも活かせるのは、制度やサービスの特徴を、それを必要とした人の経験と対応させる考え方です。
大友さんには、仕事が順調でも没頭したい対象を求める思いがありました。石井さんには、つくる仕事を続けながら、使う人との距離を変えたいという思いがありました。その先で、生活を支えながら学べることや、地域の人への顔つなぎが、具体的な価値になります。
企画や質問を考えるときには、次の三つを確かめてみてください。
- その人は利用する前に、何を変えたいと考えていたか。
- ほかの方法もあるなかで、何を理由にそれを選んだか。
- 利用した後に、本人の工夫や周囲の協力が必要だったのはどこか。
この三つが見えると、制度が用意する支援と、本人が取り組むべきことを一緒に伝えられます。期待できることと、自分でも確かめるべきことがわかる。そんな記事が、読者の次の選択を考える材料になると考えています。
地域のブランディング・コンテンツマーケティングも支援しています
baluboでは、地域で事業に取り組む企業や、地域の魅力を発信する方に向けて、ブランディングとコンテンツマーケティングを支援しています。誰に何を伝えたいのかを整理し、コンセプトづくりから、取材・記事制作、オウンドメディアでの継続的な発信までご相談いただけます。
地域で働く人の思いや、産業・商品に受け継がれてきた工夫を、読み手にとって関わる理由が見つかるコンテンツへ。今回の記事のように、一人ひとりの経験から地域の仕事や暮らしを伝える企画も、一緒に考えます。
「地域の強みをどう言葉にすればいいか」「発信したい素材はあるが、読者に届く切り口が見つからない」。そんな段階から、気軽にご相談ください。

カバーは陶芸の道具を用いた生成イメージです。実際の取材人物や工房の写真ではありません。



