シンデレラ曲線とは、物語が進むにつれて主人公の状況がどう浮き沈みするかを、一本の線で表す考え方です。 童話『シンデレラ』のように、苦境から好転し、一度つまずいて、再び好転する展開をイメージするとつかみやすくなります。
小説や脚本の構成を考えるとき、出来事は並んでいるのに、途中の変化が見えにくいことがあります。そんなときは、場面の数を増やす前に「主人公にとって、何がよくなり、何が難しくなったか」を描いてみる。本記事では、図の読み方から描く手順までを解説し、後半では取材記事への応用を考えます。
シンデレラ曲線は、物語の変化を見渡すための図
シンデレラ曲線で見たいのは、物語の途中で主人公に起きる状況の変化です。文章にする前の構成案でも、書き上げた原稿でも、場面ごとの上下を並べると、どこで流れが変わるかを見渡せます。
日本語の創作解説では、「シンデレラ曲線」を物語の起伏を考える方法として使う例があります。SF作家の菅浩江さんは、2022年の「小説を書くときの超基本」で、シンデレラの展開を図式化し、物語に緩急をつける考え方を説明しています。菅浩江「小説を書くときの超基本」
関連する考え方として、米国の作家カート・ヴォネガットによる「物語の形」があります。横軸を物語の始まりから終わり、縦軸を不運から幸運として描く発想です。2016年のReaganらの論文も、この考え方を研究の背景として紹介しています。Reaganら「The emotional arcs of stories are dominated by six basic shapes」
この記事では、縦軸を主人公にとっての状況のよしあしにそろえて解説します。「気分」「読者の盛り上がり」など別のものを描く場合は、何を表す線なのかを分けておきましょう。
図の読み方:横軸は進行、縦軸は主人公の状況
シンデレラ曲線は、右へ進むほど物語が進み、上に行くほど主人公の状況が好転する図として読めます。下向きの線は、望みが遠のいたり、できることが減ったりする変化を表します。

ここでは、ペローの『シンデレラ』の英訳をもとに、展開を大きく四つにまとめます。原文では舞踏会へ二度出かけますが、図では細かな往復を省いています。『The Fairy Tales of Charles Perrault』所収「Cinderilla; or, The Little Glass Slipper」
| 主な場面 | 主人公にとって変わること | 線の動き |
|---|---|---|
| 継母たちに家事をさせられ、舞踏会へ行けない | 行きたい場所へ行く手段がない | 低い位置から始まる |
| 妖精の助けで出かけ、王子と踊る | 行けなかった場所へ行ける | 上がる |
| 深夜の鐘を聞き、城から急いで逃げる | 華やかな姿のまま、その場にいられない | 下がる |
| 靴が合うとわかり、王子と結婚する | 身元がわかり、境遇が変わる | 再び上がる |
上がる理由と下がる理由があるから、線に意味が生まれます。「ここに山を置こう」だけで決めるより、主人公の選択肢が何によって増減したかを書くと、次の場面につなげやすくなります。
横軸は、下書きでは場面や章の順番でかまいません。場面を等間隔に並べた図から、各場面の長さやテンポまで読み取ることはできないので、文章量や上映時間を点検したい場合は別に確認します。
主人公の状況と、読者の感情は分けて考える
主人公の状況がよくなった場面で、読者も安心するとは限りません。たとえば、主人公だけが罠に気づかず仕事を引き受ける場面を想像してください。本人にとっては好機でも、罠を知っている読者には不安な場面です。
構成を点検するときは、次の三つを分けると、線が何を表すかを見失いにくくなります。これは本記事で用いる編集上の整理です。
| 見るもの | 確かめる問い | 記入の例 |
|---|---|---|
| 主人公の状況 | 目的に近づいたか。制約が増えたか | 大きな仕事を任された |
| 主人公の気持ち | 本人はどう受け止めたか | 期待しているが、自信はない |
| 読者に渡す情報 | 読者は何を知り、何をまだ知らないか | 仕事に隠れた条件があると知っている |
同じ場面に「状況は好転」「本人は不安」「読者は危険を予想」という組み合わせがあっても、矛盾ではありません。状況の曲線を描いたうえで、本人の受け止め方と読者に渡す情報を添えると、場面の役割を具体的に検討できます。
「感情曲線」という言葉を使うときも、誰の感情なのかを明示することが大切です。読者の実際の感情を測っていない段階なら、「読者に期待したい反応」として書き、読者が必ずそう感じるという説明にはしません。
シンデレラ曲線の描き方:出来事と変化を対応させる
シンデレラ曲線を描くときは、最初に主人公と目的を決め、主な出来事ごとに状況の変化を書きます。以下は、構成案を点検するための編集部の提案です。細かな数値を付けなくても、前の場面から上がるか、下がるか、変わらないかで始められます。
- 主人公と目的を一行で書く。 誰が、何を実現したいのかを決めます。登場人物が複数いる場合は、まず一人の視点に絞ります。
- 主な場面を順に並べる。 各場面には「相談する」「試す」「断られる」など、実際に起きる出来事を書きます。
- 場面の前後で変わった条件を書く。 使える手段、相手との関係、期限、わかった事実などを確認し、前の場面との上下を決めます。
- 点を結び、転換の理由を読む。 下がった場面から次の行動が生まれるか、最後の好転を支える準備が前にあるかを確かめます。

記入するときは、次の形を場面ごとに使えます。
場面: 何が起きるか。
前後の変化: 主人公にとって、何ができる/できない状態になるか。
上下: 上がる/下がる/変わらない。その理由は何か。
次の判断: 変化を受けて、主人公は何を選ぶか。
線が平らだからといって、必ず事件を足す必要はありません。状況が動かないまま、人間関係の意味が変わったり、同じ出来事への理解が深まったりする物語も考えられます。曲線だけで作品のよしあしを決めず、自分が描きたい変化を確かめる補助に使います。
取材記事への応用:転換点と判断を見つける
取材記事でシンデレラ曲線を使うなら、確認できた出来事から、状況が変わった場面と本人の判断を見つけるために使います。物語の形を先に決めて、取材相手の経験を当てはめると、実際にはなかった苦労や成果を足すことになりかねません。
たとえば「社内の引き継ぎを改善する取り組み」を記事にする架空例を考えます。これは手順の説明用で、baluboや顧客の実績ではありません。
| 想定する場面 | 変化の内容 | 取材で確かめること |
|---|---|---|
| 引き継ぎ情報が人ごとに散らばっている | 担当者は必要な情報を探している | 誰が、何を、どこで探していたか |
| 共有シートを試す | 情報を一か所で見られるようになる | 何を集め、誰が使ったか |
| 記入方法がそろわず、確認が必要になる | 一覧にしても判断できない情報が残る | どの欄で、どんな確認が発生したか |
| 項目と記入例を見直す | 使い方を変えて再び試せる | 何を残し、何を変えたか。その理由は何か |

この例の後半で知りたいのは、「困ったけれど頑張った」という気持ちだけではありません。何が使いにくかったのか、別の方法も考えたのか、なぜ項目の見直しを選んだのか。変化の理由を聞くことで、読者が自分の仕事と比べられる材料になります。
成果を書くには、さらに確認が必要です。「再び試した」と「確認の手間が減った」は別の事実です。効果を主張するなら、対象業務、比較期間、測定方法などをそろえて確かめます。途中の失敗がなかった場合も、失敗を作らず、選択肢を比べた場面や運用上の工夫を探しましょう。
取材で判断の理由を聞く方法は、導入事例のインタビュー質問でも整理しています。記事全体の問いと章の役割を決めたい場合は、記事構成案の作り方を参照してください。
起承転結・三幕構成との違いは、何を点検するか
シンデレラ曲線は主人公の状況の変化を、起承転結や三幕構成は話の区切りや展開の役割を考えるために使えます。本記事では、構成を点検する際の役割を次のように分けます。
| 考え方 | 主に見るもの | 構成で使う問い |
|---|---|---|
| シンデレラ曲線 | 主人公の状況の浮き沈み | 何が好転・悪化し、次の選択にどうつながるか |
| 起承転結 | 導入、展開、転換、結びの役割 | 前提を示し、話を進め、見方を変え、どう結ぶか |
| 三幕構成 | 設定、対立・試行、決着という大きな区切り | 何が始まり、何に向き合い、どう決着するか |
同じ構成案に併用できます。ただし「起で必ず下がり、承で必ず上がる」のように、一対一で固定する必要はありません。章の区切りを先に整理し、その中で主人公の状況がどう動くかを描くと、それぞれの役割を保てます。
SEOの用語解説など、答えをすぐに知りたい記事では、結論を先に渡すほうが問いに合います。シンデレラ曲線を使うために答えを後ろへ隠す必要はありません。人物の経験を追う部分など、変化をたどる意味がある箇所へ使うのが本記事の提案です。
シンデレラ曲線のよくある疑問
必ずW字になるのですか?
曲線の形は、どの場面を拾い、何を縦軸にするかで変わります。この記事の図1は、低い状態からの「上昇→下降→再上昇」を大きく描いています。すべての場面をW字に当てはめるより、上がる理由と下がる理由を説明できるかを確かめてください。
シンデレラ曲線は、物語が成功する法則ですか?
本記事では、物語の変化を考える補助として扱います。2016年のReaganらの研究は、Project Gutenbergから条件で選んだ英語の1,327作品を分析し、六つの基本的な感情の推移を報告しました。その一つが「Cinderella」の上昇・下降・上昇です。ただし、分析したのは語彙の感情的な傾向であり、個々の読者の反応を直接測ったものではありません。この研究を、日本語の記事の読了率や売上を保証する根拠にはできません。Reaganら、2016年:方法・対象・結果
悪い出来事を増やすほど、よい物語になりますか?
出来事の数だけでは判断できません。構成を見直すなら、主人公が何を望み、何が変わり、それを受けて何を選ぶかを先に読み直してみてください。取材記事では、実際に起きたことと掲載できる範囲が前提です。苦労を増やすより、本人が選んだ理由を具体的にするほうが、その経験から学べる記事になります。
参考資料
資料の確認日:2026年10月14日。本文・図版の作り方と取材記事への応用は、資料の要点を踏まえた編集部の整理・提案です。
- 菅浩江「小説を書くときの超基本」(2022年4月28日):「シンデレラ曲線」の創作解説での用例。
- Andrew J. Reaganほか「The emotional arcs of stories are dominated by six basic shapes」(EPJ Data Science、2016年11月4日):ヴォネガットの図の軸、感情の推移の分析方法と対象、Cinderella型の位置づけ。
- Charles Perrault『The Fairy Tales of Charles Perrault』「Cinderilla; or, The Little Glass Slipper」(1922年刊行の英訳版、Project Gutenberg所収):図1と場面説明の参照原文。挿絵や既存の図は転載していません。



