「ご確認頂く」は漢字でよいのか。「記事を製作する」と書いて、何となく引っかかる。変換候補は出てくるのに、どれを選ぶかで手が止まることがあります。
表記を選ぶときは、言葉の意味、文の中での働き、媒体が採用する基準を順に確かめると整理できます。漢字かひらがなかという見た目だけで判断すると、別の意味まで同じ形にそろえてしまいます。
前回の記事では、媒体の表記ルールの作り方を紹介しました。今回は編集・広報担当者やライターに向けて、個々の原稿で迷いやすい10項目を取り上げます。頻度調査によるランキングではなく、確認の分かれ目を学べる語を編集部で選びました。例文はすべて説明用の作例です。
『記者ハンドブック』を、どう参考にする?
『記者ハンドブック』は、記事の用字用語を判断するための手引です。共同通信社の第14版の書誌情報では、漢字と仮名、送り仮名、同音異義語、数字、外来語などを扱うことが確認できます。
編集に携わった成川祐一氏は、2017年の論考で、読み手に伝わる文章と、統一した基準を守ることの大切さを説明しています。これは第13版までを扱った論考で、第14版の個別ルールを示す資料ではありません(「正しく伝わる日本語のために」)。
本記事では、第14版に準拠する辞書製品の公式ページで確認できる用例を参照し、文化庁の公用文資料と日本漢字能力検定協会の辞書でも判断を補っています。書籍の10項目をそのまま抜粋したものではありません。各項目に確認先を付け、資料の基準と編集部の提案を分けて説明します。
まず一覧で確認する、迷いやすい表記10選
同じ読みでも、使う場面は違います。次の表は判断の入り口です。正式名称や直接引用は、置き換える前に原典を確認してください。
| 迷う表記 | 確認する点 |
|---|---|
| 1. 頂く/いただく | 「もらう」の意味か、動作に添える表現か |
| 2. 下さい/ください | 物を求めるのか、動作を頼むのか |
| 3. 事/こと | 具体的な事柄か、前の文を受ける働きか |
| 4. 時/とき | 時間そのものか、条件・場面を示すのか |
| 5. 制作/製作 | 何を作るのか。分野独自の用法はあるか |
| 6. 回答/解答 | 問いに返事をするのか、問題を解くのか |
| 7. 収束/終息 | 落ち着く段階か、終わった段階か |
| 8. 超える/越える | 数値・基準を上回るのか、境を通り過ぎるのか |
| 9. 一人二役/1人2役 | 数量の記述か、ひとまとまりの慣用的な語か |
| 10. テークアウト/テイクアウト | 採用する資料の版と、店・サービスの正式表記は何か |
1. 「頂く」と「いただく」——動作に添えるなら、ひらがな
「確認していただく」のように、ほかの動作に添える用法では、ひらがなで「いただく」と書きます。物を「もらう」という動作を表す場合は、「記念品を頂く」のような漢字表記と区別できます。
- 動作に添える例:担当者に原稿を確認していただく。
- 物を受け取る例:登壇のお礼に記念品を頂く。
文化審議会の「公用文作成の考え方」は、補助的な用法を仮名で書くとしています(解説p.11)。これは公用文の基準です。企業の記事でも判断の手がかりになりますが、漢字が使える場面でひらがなを選ぶ媒体まで誤りとするものではありません。
「ご確認いただく」も、確認という動作を受ける表現としてひらがなにします。丁寧な文章に見せるため、敬語をすべて漢字へ変換する必要はありません。
2. 「下さい」と「ください」——依頼文では、何を頼んでいるかを見る
「お読みください」「確認してください」のように動作を頼む場合は、「ください」と書きます。物を求める「資料を下さい」とは、文の働きが違います。
- 動作の依頼:公開前に、肩書きをご確認ください。
- 物を求める例:受付で、資料を一部下さい。
公用文資料では「〜してくださる」などの補助的な用法を仮名書きとしています(同資料、解説p.11)。「資料を下さい」は物を求める用例です。一般読者向けの媒体でこれも「資料をください」にそろえるなら、媒体の選択として記録できます。
表記を直しても、依頼内容が明確になるとは限りません。「ご確認ください」だけで終わらず、何をいつまでに確認するのかも書くと、相手が次の行動を判断できます。
3. 「事」と「こと」——前の内容をひとまとまりにするなら、ひらがな
「取材すること」「確認したこと」のように前の内容を受ける場合は、「こと」と書きます。「事が起きる」のように具体的な事柄を表す用法とは分けて考えます。
- 内容を受ける例:公開日を先に決めることが大切です。
- 事柄を表す例:予期しない事が起きた。
前者は「形式名詞」と呼ばれる働きで、公用文資料でも仮名書きの対象です(同資料、解説p.11)。「仕事」「出来事」など、別の語の一部にある「事」まで置き換えないようにします。
4. 「時」と「とき」——条件を示すのか、時間を指すのかを分ける
「原稿を直すとき」のように条件や場面を示すなら「とき」、時間そのものを指す「時がたつ」なら「時」が判断の目安です。
- 条件・場面の例:人名を直すときは、本人の公式プロフィールを確認する。
- 時間そのものの例:取材から時がたつと、所属が変わっていることもある。
公用文資料は形式名詞を仮名書きとする一方、特定の時点を示す場合には漢字で書く例も挙げています(同資料、解説p.11)。「〜した時」を見つけたらすべて誤り、とは判定できません。この記事のような一般向けの説明文と、法令など厳密な条件を記す文書は分けて確認します。
5. 「制作」と「製作」——「形があるか」だけでは決めない
記事や作品を作る説明では「制作」、道具や機械などを作る説明では「製作」が目安です。ただし、「形がないものは制作、あるものは製作」と覚えると、絵画や彫刻の説明で迷います。
日本漢字能力検定協会の漢字ペディアは、「制作」に芸術作品や映画・放送番組を作る意味を挙げています。「製作」には機械・道具などに加え、映画などの企画・統括に関わる意味もあります。
- コンテンツの例:採用サイトに掲載するインタビュー記事を制作する。
- 道具の例:撮影用の小道具を製作する。
映画や番組のクレジットでは、その作品が示す担当や正式表記を確認します。「映像だから制作」と一括変換せず、誰がどの仕事を担ったかを残してください。

6. 「回答」と「解答」——質問への返事と、問題の答えを分ける
アンケートや取材の質問に答えるなら「回答」、問題を解いて答えを出すなら「解答」です。漢字ペディアの「回答」でも、この意味の違いを確認できます。
- 質問への返事:取材先から質問への回答が届いた。
- 問題を解く例:記事末尾の計算問題に解答を付ける。
読者アンケートで求めるのは、多くの場合、正解ではなく経験や意見です。「解答欄」と書いていたら、何に答えてもらう欄なのかを確かめましょう。逆に学習教材の問題なら、「解答」が合う場面があります。
7. 「収束」と「終息」——落ち着いたことと、終わったことは違う
事態が落ち着くことを表す「収束」と、終わることを表す「終息」は、伝える段階が違います。『記者ハンドブック第14版』に準拠するATOK辞書の公式公開用例でも、この区別を確認できます。
ここで大切なのは、字を選ぶ前に状況を確かめることです。例えば問い合わせの件数が減っただけなら、それを根拠に「問題が終息した」とは書けません。
編集部の提案は、状況が曖昧なら事実を具体的に書くことです。 架空の例なら、「問い合わせが収束した」より「問い合わせは1日20件から5件に減った。対応は続けている」と書く方が、減ったことと残っていることを伝えられます。
数字は説明用です。実際の記事では確認できた件数・期間に置き換え、件数の減少と問題の解決を混同しないようにします。
8. 「超える」と「越える」——基準を上回るのか、境を通り過ぎるのか
人数や予算などの基準を上回るなら「超える」、場所や時間の境を通り過ぎるなら「越える」が目安です。漢字ペディアの「こえる」は、二つの意味と用例を分けて示しています。
- 数値・基準の例:応募者数が定員を超えた。
- 境を通り過ぎる例:取材のために国境を越えた。
「壁をこえる」のような比喩では、何を壁と捉えているかで迷うことがあります。「売上目標を超えた」「部署間の協力が始まった」など、実際に起きた変化を具体的に書けないかも考えてみてください。
9. 「一人二役」と「1人2役」——数字をすべて算用数字にしない
慣用的な語としての「一人二役」は、漢数字で書く例です。第14版準拠のATOK辞書の公式ページにも、「1人2役」から「一人二役」への候補が示されています。
- 慣用的な表現:編集と撮影を、一人二役で担当する。
- 数量を明示する説明:1人の担当者が、編集と撮影の2業務を担当する。
どちらの例も意味を伝えられますが、書いているのが慣用的な語なのか、人数や業務数なのかが違います。「横書きだから全部算用数字」と決めてしまわず、語のまとまりも確認してください。数字の全角・半角は、さらに媒体の基準でそろえます。
10. 「テークアウト」と「テイクアウト」——参照した版も確かめる
『記者ハンドブック第14版』に合わせるなら「テイクアウト」です。第14版準拠のATOK辞書の公式公開用例は、「テークアウト」に対して「テイクアウト」を候補として示しています。
中日新聞校閲部も、第14版で「テークアウト」から「テイクアウト」に変わったことを説明しています(「記者ハンドブックいまむかし」、2022年8月18日)。書き方を覚えていても、参照した版が違えば、現在使う基準とずれることがあります。
ただし、紹介する店やサービスの正式名称は別に確認します。例えば、本文の一般語は「テイクアウト」に統一する架空の媒体でも、画面上の正式な名前が「テークアウト予約」なら、その名前は保持します。
テイクアウトの注文は、画面の「テークアウト予約」から受け付けています。
本文と画面上の名前を分けて扱った作例です。自社の表記表にも「どの資料の、どの版を採用したか」を残し、古い原稿を現在の基準だと思い込まないようにしましょう。
直した表記には、次の人が使える理由を添える
修正を共有するときは、「この形に直してください」に一言だけ理由を添えると、別の文でも判断できます。baluboの編集でも、変更理由と、他の原稿へ適用できる条件を残すことを重視しています。
例えば、次のように記録します。
- いただく: 動作を受ける補助的な用法なので、ひらがなにした。
- 回答: 問題の正解ではなく、取材の質問への返事なので、この字を使った。
- テークアウト予約: 画面上の正式名称なので、一般語の統一対象から外した。
単語だけの置換リストにすると、意味や例外が抜け落ちます。迷った文を一つ残し、理由と確認先を添えるところから始めてください。表記表へまとめる手順は、前回の「記事の表記ルールの作り方」で紹介しています。
出典・参考資料
- 共同通信社『記者ハンドブック 第14版 新聞用字用語集』書誌情報(2022年3月)
- ジャストシステム「共同通信社 記者ハンドブック辞書 第14版 for ATOK」 — 公式掲載の用例画面で「収束/終息」「一人二役」「テイクアウト」への変換候補を確認。
- 成川祐一「正しく伝わる日本語のために:共同通信社記者ハンドブックの成り立ち」(『情報管理』60巻2号、2017年)
- 中日新聞校閲部「記者ハンドブックいまむかし」(2022年8月18日)
- 文化審議会「公用文作成の考え方」建議・解説(2022年1月7日、解説p.11。PDFでは23ページ目)
- 日本漢字能力検定協会・漢字ペディア:制作、製作、回答、こえる
参照情報の確認日:2026年10月14日。例文・表・図版は編集部作成。書籍全体の転載・要約ではなく、確認できる公開資料を基にした実務解説です。



