ある原稿では「Web」、別の原稿では「ウェブ」。担当者が交代すると、前回直したはずの表記が戻ってくる。そんなときは、修正した言葉だけでなく、どの範囲に使うルールなのかも残してみてください。
記事の表記ルールは、文体や文字の使い方、頻出語の書き方を共有するための基準です。使う形、適用する範囲、例外、理由を一組にすると、次の原稿でも判断できます。
この記事では、企業メディアの編集・広報担当者に向けて、最初の表記表を作り、書き手に渡して運用する手順を紹介します。以下のひな形と判断例は、公開資料とbaluboの編集基準を踏まえた編集部の提案です。
表記ルールは、編集方針と何が違う?
表記ルールは、記事の言葉をどう書き表すかを決めます。編集方針が「誰の、どんな問いに答える記事を載せるか」を扱うのに対し、表記ルールは「本文をです・ます調にする」「同じ語はどの形で書くか」など、原稿に適用する基準です。
用字用語表は、その基準のうち、個々の文字や言葉の選び方を検索できるようにした一覧です。スタイルガイドという文書に、文体、表記、引用の扱い、見出しの形式などをまとめる方法もあります。名称は組織によって違うため、何が書かれた文書かを冒頭で説明しましょう。
ルールがないまま「読みやすく直して」と依頼すると、確認者それぞれの好みが修正指示になることがあります。ただし、表記がそろっていても、数字や出典が正しいとは限りません。表記確認と事実確認は、確認する内容を分けて進めます。校正・校閲などの言葉の違いは、編集・校正用語の解説で確認できます。
最初は、既存原稿で実際に迷った語を集める
表記表の初版は、直近の原稿と修正履歴から作れます。考え得る言葉をすべて登録するより、繰り返し出てくる語と、確認者の判断が割れた箇所を拾います。
たとえば「Web/ウェブ」「取り組み/取組」「1か月/1ヶ月」のような候補です。この段階では、片方を誤りと決めず、使われていた文と一緒に集めてください。固有名詞の一部なのか、普通の説明文なのかによって扱いが変わるためです。
集めた候補は、次の三つに分けると判断を進められます。
- 同じ意味で書き方が違うもの:媒体内で基本形を決める候補。
- 似ているが意味や対象が違うもの:「利用者」と「購入者」のように、使い分けが必要な語。
- 名前や引用に含まれるもの:原典や正式名称を先に確認する語。
「利用者」をすべて「顧客」へ置き換えると、購入していない利用者まで契約相手として読めてしまうことがあります。表記の統一に見える作業でも、対象を変えていないかを確かめます。
候補を集めたら、今回のルールを企業サイト全体に使うのか、マガジン記事だけに使うのかを決めます。契約書や製品マニュアルなど、目的の違う文書へそのまま広げる必要はありません。
基準にする資料と、例外の扱いを決める
表記の基準は一つの資料を土台にし、自社媒体で変える箇所を明記すると運用できます。複数の資料から都合のよい項目だけを集めると、同じ種類の語で判断が食い違うことがあるためです。
参考にできる公開資料には、文化審議会の「公用文作成の考え方」と、日本翻訳連盟の「JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)」があります。前者は政府内の公用文作成の手引、後者は実務翻訳の和訳時に使う表記のガイドラインです。どちらも企業の記事へ一律に適用される規則ではありません。
文化審議会の2022年1月7日の建議は、解説・広報などでは読み手に応じて書き表し方を工夫する考え方を示しています。付属の解説でも、引用部分を除いた同じ用語の表記をそろえ、部署で考え方を共有するよう述べています。自社でも、誰が何を読むための表記かを決める参考になります(建議・解説PDF、建議p.1/解説p.2)。
選んだ資料の名前と版・確認日を記録したうえで、独自に決めた語を追記します。「この媒体では、一般名詞としてのWebを『ウェブ』と書く」のように対象を絞ると、別の書き方を日本語全体の誤りとする必要がありません。
固有名詞・引用・技術表記は、一括置換から外す
会社名、人名、製品名、文書の題名は、まず公式の表記や原典を確認します。通常の本文で「ウェブ」を選んでも、正式名称に含まれる「Web」を機械的に変えない、という扱いです。
文化審議会の解説も、地名・人名の固有名詞は常用漢字表の適用対象ではないとし、人名は原則として本人の意思に基づく表記を用いるとしています。これは同資料の人名・地名についての説明です。企業メディアでは、それに加えて製品名などの正式表記の確認先も決めておくと、作業を引き継げます(同PDF、解説p.8)。
公開文書からの直接引用は、原文の表記を尊重します。引用を整える必要がある場合は、どこを省略・補足したかと、意味が変わらないかを別に確認します。取材音声から記事へ整える作業でも、話者の「可能性がある」を「できる」へ変えるのは、表記統一ではありません。
URL、ファイル名、コード、型番、単位記号なども、文字や大小の変更が識別や意味に影響し得るため、通常の置換対象から分けます。専門語を残して説明を加える方法は、専門用語を読みやすく扱う記事も参考になります。
コピーして使える、表記ルールのひな形
表記表は、基本ルールと個別の語の一覧に分けます。次は企業メディア向けの作成例で、すべての媒体に同じ選択を勧めるものではありません。
まず文書の冒頭へ、運用に必要な情報を書きます。
対象: [媒体名]の記事本文、見出し、図表、説明文
基本の文体: [です・ます調など]。引用・発言の扱いは別記
参照する資料: [資料名・版・確認日]
優先する条件: 正式名称と原典を確認し、この媒体の決定事項を適用する
対象外: [URL、コード、契約書など]
判断が割れたときの確認先: [担当者・窓口]
現行版: [版番号・適用開始日・正本の保存先]
文体以外にも、次の項目を決めておくと、原稿を確認する場所が明確になります。
- 数字と日付: 本文の数字を全角・半角のどちらで書くか。日付を「2026年10月14日」のように示すか。慣用句や引用をどう扱うか。
- 句読点と括弧: 読点・句点、会話や語句を囲む括弧をどう使うか。書名や引用の中の括弧は別に確認する。
- 略語と単位: 初出で正式名称や説明を添えるか。単位は分野の基準や原典と照合し、大文字・小文字を見た目だけでそろえない。
これは検討する項目の例です。JTFの案内も文体、句読点、文字、数字、単位などを整理していますが、短い「12のルール」では例外の説明を省いています。抜粋だけで判断できない場合は、同ページから原本へ進んで条件を確かめます(日本翻訳連盟の案内)。
個別の語は、「探すときの候補」「この媒体で使う形」「適用範囲と例外」を並べます。
| 探すときの候補 | この媒体で使う形の例 | 適用範囲・例外の例 |
|---|---|---|
| Web、WEB、ウェブ | ウェブ | 一般名詞の説明文。正式名称・引用は確認して保持 |
| 1ヶ月、1カ月、1か月 | 1か月 | 本文の期間表記。資料名や直接引用には一括適用しない |
| 取組、取り組み | 取り組み | 一般の説明文。組織名・事業名などは正式表記を確認 |
| お客様、お客さま | 顧客、利用者、読者など | 単純な置換はせず、実際に指す相手に合わせる |
表が広くなりすぎる場合は、根拠・更新履歴を別の欄へ持たせても構いません。ただし、例外は使う形の近くに置きます。変換先だけをコピーして使うときにも、条件が落ちないようにするためです。
「理由」と「決めた日」を一件ずつ残す
理由は長い解説でなくて構いません。「一般読者向けの説明文で統一するため」「正式名称のため変更しない」など、その判断を次の人が再現できる一文にします。
たとえば、架空の媒体で次のように記録します。
項目: ウェブ
決定: 一般名詞としては「ウェブ」を使う
理由: 本文内で英字とカタカナが混在しないようにするため
例外: 名称・引用・URLは原典確認後に判断する
適用: 次号の記事から。過去記事の一括変更はしない
決定者・日付: [編集担当者・年月日]
baluboの編集でも、修正した形だけでなく、変更の理由と、別の原稿へ使える条件を残すことを重視しています。一つの案件で採用された表記を、そのまま別媒体の決まりにしないためです。
表記チェックは「候補を探す」と「直す」を分ける
検索機能や校正ツールで見つけた語は、修正候補として確認します。見つかったすべての箇所を、そのまま置換する必要はありません。
ここでは、「一般名詞はウェブ、正式名称は確認して保持」というルールを試します。以下は説明用の架空の文です。
確認前: Webの記事で、社内の「Web相談室」を紹介する。
確認後: ウェブの記事で、社内の「Web相談室」を紹介する。
「Web相談室」が正式名称と確認できた、という条件での例です。先頭だけを変え、名称は残しています。「原稿にWebが残っている」という検出結果だけでは、未修正か、意図した例外かを判定できません。

AIへ確認を頼む場合も、先に対象の原稿と適用するルールを分けて渡し、「該当箇所・提案・ルール番号・例外の可能性」を列挙するよう指示できます。社内で利用を認めた環境と情報の範囲で使い、ルールにない言い換えは自動で採用しません。AIが示した候補にも誤検出や見落としがある前提で、原文を読みます。
本文だけでなく、図表・説明文・入稿後も見る
書き手へは、執筆前に正本のリンクと版番号を渡します。外注する場合は、記事制作の依頼書にも参照先を入れると、添付した古い表が使われ続けるのを避けられます。
原稿の確認では、本文のほか、タイトル、見出し、図表内の文字、画像の説明文も対象にします。画像の中の文字は文書検索で見つからない場合があるため、別に見ます。入稿後は、修正が反映されたか、文字が欠けていないか、意図した名称が保たれているかを公開前の画面で確認してください。
ルールは、迷った記録から更新する
更新では、今回だけの例外と、今後も適用する変更を分けます。どちらかが曖昧なままだと、次の担当者が今回の原稿を新しい規則として扱ってしまうためです。
たとえば新しい製品名が出たなら、公式の表記と確認先を追加します。一般語の基本形を変えるなら、理由、適用開始日、進行中の記事をどちらの版で確認するかを決めます。表を更新したことも、書き手と確認者へ伝えます。
過去記事をすべて書き換えるかは、変更の理由で判断します。単なる媒体の好みの変更と、人名・製品名の誤記訂正では優先度が違います。誤記や意味のずれは確認して直し、好みの変更なら次の制作分から適用する方法もあります。
最初から大きな辞書を完成させる必要はありません。直近の一稿で迷った語を集め、基本形と例外を書き、次の一稿に当てて試してみてください。表記をそろえることに集中しすぎて、読者に必要な説明や、話者が残したかった留保を削っていないかも最後に確かめます。
企画の採否や公開責任まで決めたい場合は、オウンドメディアの編集方針の作り方と組み合わせて使えます。
出典・参考
- 文化審議会「公用文作成の考え方」について(建議、2022年1月7日)
- 「公用文作成の考え方」建議・解説PDF — 建議p.1、解説p.2・8を参照。本文中のページは資料の印刷表記です。
- 日本翻訳連盟「スタイルガイド」
参照情報の確認日:2026年10月14日。表記表、運用のひな形、例文と図版は編集部による作例です。公用文・翻訳の基準を企業メディア全般の義務として示すものではありません。



