検索結果で答えがわかり、リンクを押さずに調べものを終える。「ゼロクリック」が広がると、記事をつくって検索から訪問してもらう、という企業メディアの前提が揺らぎます。
話題の「68%超」は、米国のGoogle検索を対象にした調査の数字です。日本のサイト流入が一律に68%減った、あるいはAI検索の68%が訪問につながらなかった、という意味ではありません。
この数字を踏まえ、balubo magazine編集部は、検索結果の中で伝わる情報と、サイトへ来て確かめる情報を、一緒に設計する必要があると考えます。企業の広報・マーケティング担当者に向けて、調査でわかることと、記事づくりで変えられることを分けて考えます。
68.01%は、どの検索を数えた数字か
SparkToroが2026年6月8日に公表した分析では、米国Google検索の68.01%がクリックなしで終わりました。対象はSimilarwebのデスクトップ・モバイルのブラウザー行動データで、期間は2026年1〜4月。Google検索アプリは含みません。SparkToroの原典/データ提供:Similarweb
同記事が示す2024年の値は60.45%。差は7.56ポイントですが、2024年はDatos、2026年はSimilarwebと調査パネルが異なります。著者も比較条件の違いを認めています。モバイルは10秒の無操作をセッション終了とするなど、集計上の仮定もあります。
したがって、「クリックされない検索が増える」という警戒材料として受け止めつつ、同じ人を追った厳密な増加率としては読まないほうがよいでしょう。2026年10月に新たに観測した数字でもありません。
AIの要約があると、クリックは減るのか
AIによる要約とクリックの関係を考える材料に、Pew Research Centerの行動分析があります。米国の成人900人が2025年3月に行った68,879件のGoogle検索を調べたところ、通常の検索結果リンクへのクリックは、AI要約がある検索ページで8%、ないページで15%でした。AI要約内のリンクへのクリックは、要約があるページへの訪問の1%です。Pew Research Center、2025年7月22日公表
出典:Pew Research Center。米国成人900人の2025年3月のGoogle検索行動を分析。要約の有無の判定方法は次の段落のとおりです。
ただし、AI要約の有無は、3月の行動記録にある検索語を4月7〜17日に再検索して判定しています。当時見た画面の完全な再現ではなく、同じ質問でAI要約の有無だけを無作為に変えた実験でもありません。検索内容の違いもあり、この差をすべてAIの効果と断定することはできません。
それでも、要約に出典リンクが載ることと、そこから訪問が生まれることを分けて考える理由にはなります。AIに引用されることだけを、新しい流入の保証として扱うのは早計です。
流入減少を軽く見ず、サイトの役割を考え直す
企業メディアは、訪問数が減ったときに「認知は取れているはず」と説明を置き換えるべきではありません。問い合わせや採用への接点が減る可能性があり、記事制作の費用をどう回収するかにも関わるからです。
一方で、訪問数だけを理由に、記事の価値がなくなったとも決められません。会社を知る、候補に入れる、仕様を確かめる、相談するという行動のうち、自社サイトがどこを担うかを決める必要があります。以下は、そのための編集部の整理です。
- 問いへの端的な答え
- 対象・時点・適用条件
- 会社や製品の正式名称
- 判断の根拠となる原資料
- 比較表・手順・実物の記録
- 自社の条件に照らす確認項目
たとえば、記事の要点だけを知りたい人には、検索結果の要約で用が足りるかもしれません。その一方で、社内の提案資料に使いたい人は、原資料の数字、比較条件、更新日まで確認したくなるでしょう。記事は、後者の確認にも耐える必要があります。
ここで言う「訪問する理由」は、答えを途中で隠すことではありません。要約だけで概要を理解でき、本文へ進むと判断を確かめられる。 この関係をつくることです。
なお、広告表示や有料購読を主な収益源とする媒体では、閲覧機会の減少が売上へ直接響きます。見込み顧客との接点をつくる企業メディアと、同じ採算の考え方にはできません。本稿の提案で、あらゆる媒体の流入減少を埋め合わせられるわけではありません。
「何ができるか」に、判断の根拠と条件を足す
記事を直すときは、読者が選択する場面を一つ決め、本文の答えを確かめる材料を足します。一般的なメリットの説明だけでは、読者は自社に当てはまるか判断できません。
以下は、「取材記事の制作を内製するか、外注するか」を扱う記事を想定した編集例です。実在企業の成果や、baluboの顧客事例ではありません。
| 記事で答える問い | 本文に残す判断材料 | 確認する根拠・担当 |
|---|---|---|
| 社内だけで制作できるか | 取材・執筆・専門確認・公開を誰が担うか | 工程ごとの担当と、確保できる作業時間 |
| 外注すると何が変わるか | 委託する工程と、社内に残る確認作業 | 見積書・依頼範囲・原稿確認の手順 |
| どの依頼先が合うか | 専門領域の理解、取材方法、修正の範囲 | 公開実績と、担当者への確認事項 |
「外注すれば負担を減らせます」で終えると、どの仕事が減るかがわかりません。「取材と執筆は委託し、技術の正確さと公開可否は社内で確認する」と書けば、読者は自社の体制と比べられます。
このような記事には、結論だけでなく、結論を出すまでの材料があります。取材で得た選択の理由、採用しなかった案、適用できない条件、確認済みの実物写真や資料。そうした情報を、公開できる範囲で蓄積したいところです。
同時に、AI向けの特別な形式を整えることへ予算を寄せすぎないようにします。Googleは、AIによる概要やAIモードへの掲載に、専用の構造化データや新しいAI用ファイルは不要と説明しています。基本的なSEOは引き続き有効で、条件を満たしても掲載が保証されるわけではありません。Google Search Central
Googleの説明の対象はGoogle検索のAI機能です。あらゆるAIサービスの仕様を説明するものではありません。本文の直し方は、BtoBオウンドメディアを「問答」に応える記事へ作り替えるでも扱っています。
成果は「見つかる・訪問する・行動する」を別々に見る
ゼロクリックへの対応を評価するときも、サイト流入の計測は続けます。そのうえで、見つけてもらえたか、訪問されたか、次の行動につながったかを別の記録にします。下表は編集部の提案であり、各指標の増減だけで施策の因果を証明するものではありません。
| 確かめたいこと | 記録する例 | その記録だけでは言えないこと |
|---|---|---|
| 検索やAI回答で見つかるか | 検索の表示回数・クエリ、条件を固定したAI回答の言及・出典リンク | 読者が認識・記憶した人数 |
| サイトを訪れたか | 検索クリック、参照元、記事への訪問 | AI回答を見たことが訪問の原因か |
| 検討や関係が進んだか | 問い合わせ・登録の件数、相談時に本人が語った接点 | 一つの記事だけが生んだ成果か |
たとえばAIで会社を知り、後日に社名を検索した人がいたとしても、通常のアクセス記録だけで、その前段の体験まで確定できるとは限りません。参照元不明の訪問をまとめて「AI経由」と扱うのは避けます。相談時に「何を見て、どの情報が判断に役立ったか」を聞けば、アクセス記録とは別の手がかりになります。
AI回答の観測でも、出典リンクの表示、訪問、問い合わせを合算しません。取得できなかった回答は「引用なし」へ置き換えず、未判定のまま残します。記録方法はAI検索の引用率の測り方、サイト側の指標はオウンドメディアのKPI設計を参照してください。
最初に直すのは、すでに読者の接点になっている記事
新しいAI検索向けの記事を増やす前に、検索表示や相談との接点を確認できる既存記事から見直すことを提案します。まず、どこで読者を失い、どこで判断材料が足りないかを確かめます。
- 減った場所を分ける。 ページ・検索語・端末・国をそろえて、表示回数、順位、クリック率を確認する。検索需要や順位が下がった場合と、表示されてもクリックされなくなった場合を混同しない。
- 読者が確かめる材料を足す。 すでに接点のある記事を一本選び、比較条件、原資料、担当範囲、向かない条件など、本文に不足する情報を特定する。
- 記事から先の接点を確かめる。 関連記事、資料、相談など、実際に用意できる行き先につなぐ。SNSやメールでも、リンクを押す前に要点が伝わる形へ編集する。
改稿の前後は、たとえば変更日を除いた各28日間など同じ長さで比べ、季節性や他の施策も記録します。これは比較のための運用例であり、28日で効果が出るという意味ではありません。ゼロクリックの話題だけから、自社の減少原因を確定しないことが出発点です。
クリックが減る可能性を前に、記事をつくる理由は厳しく問われます。だからこそ、「このページには、誰が何を判断するための根拠があるか」を明確にしたい。検索結果で答えの概要が伝わった先に、確かめに来る価値を積み重ねる。それが、企業メディアが今取り組める編集だと考えます。
本稿は2026年10月18日時点で公開一次資料を確認し、編集部の見解をまとめたものです。独自の検索行動調査や、流入改善の効果検証を実施した記事ではありません。カバーは編集部制作の概念図で、実際の検索画面やクリック割合を表していません。



