会社名で検索される回数を増やしたい。そう考えると、広告、SNS、イベントなど、露出を増やす施策から始めがちです。しかし、露出を増やすことと、何の相談先として覚えてもらうかは、あわせて考えたいことです。検索せず紹介や直接訪問から相談する人もいるため、指名検索だけを相談の必須経路にはしません。
指名検索は、会社名や固有のサービス名など、ブランドを識別できる言葉を含む検索です。本稿ではBtoB企業の担当者向けに、顧客が相談を考える場面と会社の専門性を結ぶ方法と、Google検索の結果をSearch Consoleで観察するときの注意を整理します。指名検索の増加を保証する手順ではなく、施策を選び、何が確かめられたかを分けるための編集部案です。
カバーは鍵を用いたイメージ表現で、実在の顧客や調査結果を示す写真ではありません。
候補リストは、問い合わせ前につくられる
6senseの2025年BtoB購買調査では、最終購入先が検討初日の候補リストに入っていた購買が95%でした。北米・APAC・EMEAから約4,000件の回答を集め、参加条件は過去2年間に2万5,000米ドル以上の購買を行ったこと。購入額の中央値は20万〜30万米ドルの範囲です。別途の追加766回答を、この割合の分母へ足すことはしません。
これは最初から購入先が確定していた割合でも、指名検索が購入を増やしたという検証でもありません。日本の小規模な制作発注にも同じ割合を当てはめられません。相談前に見られる情報に、何を相談できる会社かを示す理由として参考にし、実際に候補に入った経緯は自社の顧客へ確かめます。
業種名に加えて、相談を考えた場面を整理する
Jenni Romaniukの『Category Entry Points In A B2B World』は、購買状況で記憶からブランドを取り出す手がかりをCategory Entry Points(CEP)と呼んでいます。動機や感情、時期や場所などが含まれます。一つの表現では一つの場面に焦点を当てつつ、時間をかけて複数の場面との結びつきを広げる考え方で、会社全体を永続的に一つの課題へ限定するものではありません。
以下は「ブランディング会社」という業種名に加えて考える、編集部の場面例です。顧客調査で実証した分類ではありません。
変化のとき
新規事業を出す、複数事業を統合する、採用方針を変える。
説明がずれたとき
営業、採用、広報が、それぞれ違う言葉で会社を説明している。
比較されるとき
競合との違いを問われても、機能や価格以外の基準を示せない。
知見を届けるとき
社内には専門知識があるが、顧客が理解できるコンテンツになっていない。
こうした場面が自社の顧客にもあるかは、問い合わせや商談で確かめます。社内で作った「困りごと」を、そのまま顧客全体の行動として扱わないようにします。
指名検索へ含める語と、目的を分けて記録する
集計する前に、何を指名検索へ含めるかを決めます。 会社名の表記ゆれ、固有のサービス名、一般語にもなる略称を同じ扱いにすると、施策の前後で比較する範囲が変わってしまいます。
次は「仮社名A」という説明用の表記を用いた分類例です。実際に取得した検索語や検索件数ではありません。
| 検索語の例 | 分けて記録するもの | その行だけでは分からないこと |
|---|---|---|
| 仮社名A | 会社名単独の指名検索 | 新規顧客か、既存顧客か、採用の関心か |
| 仮社名A 技術記事 | 会社名と課題・成果物の組合せ | 取引の意思や、実際の相談内容 |
| 仮社名A 採用/ログイン | 採用・既存利用など、目的が明示された指名検索 | 営業向け記事の効果。新規の商談として合算しない |
| 固有サービス名 | 会社名とは別のブランド名の検索 | 一般語と同名なら、その会社を探していたか |
| 一般語にもなる略称/代表者名 | 判定保留、または別の観察欄 | 自社や自社サービスを指すか。人物への関心と会社への関心も区別する |
| 技術記事 作り方 | 非指名の課題検索 | 後日、会社名で検索したか。同じ人と推定しない |
表記の追加・除外、曖昧な語の扱い、分類日を保存します。誤記を含める場合も、その表記が自社を指すと判断できるかを確認します。記事、イベント、紹介などの「参照元」は検索語の分類とは別に記録する項目です。
GoogleのSearch Consoleヘルプは、一部の検索語が匿名化やデータの制限で表に出ないことを説明しています。検索語の行が取得できないことを、検索回数ゼロとは読み替えません。ブランド/非ブランドのフィルタが表示される場合も、利用条件や誤分類があるため、分類結果の確認が必要です。
会社名を含む行が増えても、認知施策だけの効果とは断定できません。採用、報道、広告、既存顧客の利用でも検索は変わります。分類と同時に、施策の時期、問い合わせの内容、検索先のページを別々の記録として読みます。
思い出してほしい場面を選ぶ
一つの記事や説明に異なる相談場面を詰め込むと、その場で誰の何に答えるかが曖昧になる場合があります。問い合わせなどから場面を集め、次の基準で優先順位をつけます。候補の個数だけを決めて、材料のない場面を埋める必要はありません。
場面を集める
問い合わせ、商談、紹介で、相談前に何が起きていたかを集める。
頻度を見る
顧客側で繰り返し起き、自社が継続して扱える問題かを確認する。
適合を確かめる
知見、方法、体制、利益の面から、責任を持てるかを確認する。
競合と比べる
同じ場面で思い出される代替手段や会社を調べる。
証拠を結ぶ
実績、記事、担当者、成果物のうち、約束を確かめる材料を置く。
たとえば「記事制作が必要なとき」より、「専門的な事業を、初めての顧客へ説明できないとき」のほうが、場面と問題が具体的です。その会社が記事以外の方法も選べるなら、相談の余地も生まれます。
一つの場面を、役割の違う情報へ展開する
想起をつくるには、同じコピーを繰り返すのではなく、一つの場面を異なる役割の情報へ展開します。
- 問題が起きる理由を解説する記事
- 社内で確認するチェックリスト
- 選択肢と判断基準
- よくある失敗と条件
- 似た状況の実績紹介
- 具体的な進行方法
- 担当範囲と体制
- 向く案件・向かない案件
記事、実績、サービスページには、異なる判断材料を置きます。非指名の記事を読んだ人が必ず会社名で再検索するわけではなく、実績やサービスへ直接進む、営業や紹介で知るなど、入口は複数あります。
次は「製品部門の専門知識を販売店向け教材へ整理できない」という相談を扱う、架空の研修会社の展開例です。実際の問い合わせや成果を示すものではありません。
| 情報の置き場所 | この場面で用意する内容 | 確認できていないことをどう扱うか |
|---|---|---|
| 課題を解く記事 | 専門知識を教材へ整理する質問と、説明の順序を選ぶ基準 | 記事の閲覧を、研修の申込みや理解度の改善と数えない |
| 実績・方法の紹介 | 公開できる教材見本、残した情報と理由、担当した範囲 | 説明用サンプルと顧客案件を区別し、販売成果を創作しない |
| サービス・相談案内 | 取材・構成・制作の対応範囲、顧客の監修、事前に必要な資料 | 方法の説明と提供済みの実績を分け、未決の条件は相談時に確認する |
何を自社の強みとして説明できるかは、会社の強みを問題・方法・証拠・境界で整理するで、同じ架空設定の記入例を扱っています。
サイトと営業の言葉を揃える
Gartnerの2025年6月25日の公式発表では、2024年8〜9月に調査したBtoB購買者632人の69%が、企業サイトと営業担当者の情報の不一致を報告したとしています。公開発表では国別内訳や設問全文を十分に確認できず、「文言を統一すれば失注が減る割合」とは読めません。
実務では、同じ言葉を使うことだけでなく、提供範囲や顧客側の監修、未決の条件が接点ごとに食い違っていないかを点検します。サイトで企画からの相談を案内していても、提案書で顧客の準備作業を伝えていなければ、説明を見直す候補です。
少なくとも次の接点で、思い出してほしい場面、約束、証拠を揃えます。
- トップページとサービスページ
- 検索記事と実績紹介
- 会社紹介資料と提案書
- イベントのテーマと登壇内容
- 営業担当者の初回説明
- 紹介者へ伝える短い説明
表現を一字一句統一する必要はありません。顧客の困りごとと、自社が責任を持つ変化が同じであることが重要です。
AIへの言及と、検索・相談の結果を分ける
会社が扱う問題、方法、実績、条件を、読者が確認できる文章とリンクで公開します。これは読者のための情報整理であり、特定のAIへ引用される条件を検証したものではありません。
一ページ一役割
サービス、実績、記事、会社情報を混ぜず、主題と見出しを明確にする。
固有の証拠
独自調査、実績、方法、担当者など、出典を確かめられる情報を置く。
関係をつなぐ
記事から実績、実績からサービスへ、読者の判断順に内部リンクする。
更新を示す
公開日、更新日、運営者、問い合わせ先を明示し、古い条件を残さない。
Google検索のAI機能の公式説明でも、特別な構造化データは必要なく、要件を満たしても表示は保証されないとしています。これはGoogle検索の説明で、すべてのAIサービスに共通する引用条件ではありません。AIへの言及、検索での表示、訪問、問い合わせの受付は、それぞれ別に観察します。
同じ期間・条件で、検索と相談を分けて観察する
先に比較する条件と記録を決め、検索の変化と実際の相談を分けます。 90日たてば想起や施策効果を判定できる、という一律の基準はありません。掲載直後の表示・リンク確認と、検討期間を踏まえたその後の観察を分けます。
| 観察すること | 使う記録 | 読み違えないための条件 |
|---|---|---|
| 課題の記事が見つかったか | Search Consoleのページ・検索語ごとの表示とクリック | 別々に取得したページ行と検索語行を、推測で一対一に結びつけない。行がないことを0にしない |
| 定義した指名検索が変わったか | 保存した分類ルールと、同条件の検索データ | 表記の範囲を変えた場合は記録し、旧ルールと比較できる形で分ける |
| 関連情報へ進んだか | 記事から実績・相談案内などへのリンク操作 | クリックは受付ではない。計測の変更や確認用アクセスの影響も残す |
| 想定した相談があったか | 問い合わせ受付と、共有が認められる商談記録 | 検索語から個人や商談を推定して結びつけない。本人の申告と推測を区別する |
| 同時期に何が変わったか | 公開日、広告、報道、採用、イベントなどの変更記録 | 複数の変化が重なった前後差を、記事単独の効果にしない |
Search Consoleでは、グラフと表で集計の単位や含まれるデータが異なるため、合計が一致しない場合があります。Googleのデータ不一致の説明も参照し、グラフ合計から特定の検索語を引いて、残りを正確な「非指名検索」と決めないようにします。
比較時には、検索タイプ、国、端末、ページ、検索語の条件と、同じ長さの期間を保存します。たとえば変更日を除く前後28日を比較する方法は運用上の一例ですが、その日数だけで因果や十分な件数を確保できるわけではありません。新しい期間のデータがまだ集まりきっていない場合は、途中値と確定後の値を分けて扱います。
指標の役割分担はオウンドメディアのKPI設計、リンク操作と受付の違いは記事から問い合わせまでの計測へ進めます。検索流入以外の活用も含めた全体の設計は、BtoBオウンドメディアの設計で扱っています。
外部に頼む範囲
顧客が相談する直前の状況を把握し、各接点の表現を更新できるなら、想起設計は社内で進められます。外部支援が役立つのは、社内のサービス分類を顧客の場面へ翻訳したいとき、記事、実績、Web、営業資料を同じ方針で展開したいとき、第三者への取材で選定理由を確かめたいときです。
依頼する際は、顧客への調査、説明案、記事や資料への反映、計測と更新のどこまで含めるかを決めます。会社名の検索増を成果の保証にせず、何を制作・確認して引き渡すかを合意します。
まとめ
- 指名検索を、定義したブランド語と検索目的の範囲で観察する
- 思い出される場面は、業種だけでなく、変化、停滞、比較の状況から決める
- 非指名記事、実績、サービス、営業資料を、同じ場面と証拠でつなぐ
- 会社名単独だけでなく、会社名+課題、問い合わせ、商談の言葉を観察する
- 検索件数の増加を単一施策の成果と断定せず、同じ期間と条件で検証する
よくある質問
Q. 指名検索を増やすには、広告を出すべきですか。
広告を検討するなら、誰のどんな相談場面へ届け、遷移先で何を確かめてもらうかを先に決めます。出稿だけで指名検索や相談の増加は保証されません。予算と届け方を比較し、広告以外の営業・紹介・既存コンテンツの改善も候補にします。
Q. 会社名の検索数が少なくても、問題がありますか。
市場規模や商談数が小さいBtoB企業では、検索数だけで良否を判断できません。対象顧客からの紹介、問い合わせ内容、商談での理解など、少数でも事業に近い行動を合わせて見ます。
Q. 複数の事業がある会社は、想起される場面を一つにすべきですか。
会社全体の共通する約束を一つ持ち、事業ごとに具体的な場面を分ける方法があります。場面同士が無関係なら、サイトの導線やブランドの階層も含めて整理します。
データの出典
- 6sense, 2025 B2B Buyer Experience Report(世界3地域、回答約4,000件)
- Jenni Romaniuk / Ehrenberg-Bass Institute / LinkedIn B2B Institute, Category Entry Points in a B2B World(2022年)
- Google検索セントラル, AI機能とウェブサイト(Google検索の要件と表示保証の限界)
- Google Search Consoleヘルプ, ディメンションとデータのグループ化・データ不一致の説明(検索語の欠測・集計・分類の制約)
- Gartner, Sales Survey Finds 61% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Buying Experience(2024年調査、n=632)
資料確認日:2026年10月15日。検索語の分類、架空の研修会社、情報の展開表、観察の分担は編集部の提案です。自社の指名検索や問い合わせを増やした実測結果ではありません。
※海外のBtoB購買調査を、日本のすべての企業へ直接一般化はできません。指名検索は、報道、採用、広告、既存顧客の行動でも変わるため、単一の施策との因果関係は断定していません。



